基地引き取り運動とは?
基地引き取り運動は、沖縄の米軍基地を「本土」に引き取ることによって沖縄への差別を解消しようとする運動です。「本土」の国民に対し、沖縄に基地を押しつけるのはやめよう、基地問題は「自分事」として自分たちの責任で解決しよう、と主張しています。
沖縄県には日本の米軍基地の約7割があります。沖縄では、米軍基地が集中しているために、多くの事件・事故が相次いで発生し、憲法が定める基本的人権が脅かされている状態が続いています。そもそも沖縄に米軍基地が集中したのは、もともと「本土」にあった米軍基地が沖縄に移設され、そのまま押しつけられてきたためです。また、歴史をさかのぼれば、このような沖縄に対する差別は、薩摩藩による琉球侵攻、明治政府による琉球併合以来ずっと続いていると言えます。沖縄にだけ過剰に基地負担を押しつけることは許されない差別です。基地引き取り運動は、日米安保条約を国民の約8割が支持し米軍基地を必要とするのであれば、全国で平等に負担するべきであると訴えています。
基地引き取り運動は、2015年に大阪で立ち上がり、現在では全国の10を超える都道府県に広がりをみせています。各地のグループはそれぞれの独自性のもとに運動を展開していますが、全国のすべての会が、「本土」による沖縄差別を解消するための第一歩として、辺野古新基地建設は今すぐ中止し、普天間基地を速やかに「本土」に引き取ることを主張しています。
基地引き取り運動についてのQ&A(問答)
問い: どこへ引き取るのですか?
答え1:
沖縄への米軍基地の集中は、沖縄以外の日本に住む人が、論理的、かつ正当な理由がないままに沖縄へ基地を押しつけていることが要因となっています。それを差別と言い、その意味で、「沖縄問題」として語られてきたものは、実は「日本問題」であると言えます。どこへ引き取るのかというとき、差別によって基地を押しつけている日本人一人ひとりの責任として、自分が住む町へ、自分の家の隣へと想定することが出発点になると思います。
ただ、「基地引き取り行動」は、その覚悟を迫ったり、その覚悟がないと参加できないというものではありません。基地が自分の家の隣へ来ることは、なかなか簡単に受け入れられることではないと思います。では、“なぜ、それほど抵抗がある米軍基地を合理的な理由もなく沖縄に置き続けているのか”というモヤモヤにつき当たることが大切だと思っています。そのモヤモヤから歴史を学び、沖縄と日本の関係性や、自分の立ち位置を見つめることで変わっていくことがあるはずです。「基地引き取り行動」を通して、「どこに引き取るのか」の前に、まずはそのモヤモヤを多くの人と共有したいと思っています。(松本亜季@大阪)
答え2:
「どこへ引き取るのか」。これは大事な問いです。日米安保条約を70年も維持しておきながら、この問いから逃げ、本来自分で担うべき米軍基地を沖縄に押しつけてきたのが、私たち日本人です。なんたる無責任ぶりでしょうか。
「どこへ引き取るのか」。まずは、この問いをあなたが引き取ってください。そして、あなたの答えを出してください。まずは、普天間基地(海兵隊)です。どこに引き取りますか?あなたの暮らす自治体ですか?分散移転ですか?ローテーションですか?それとも、国外ですか?難しい問いかもしれませんが、沖縄にこれ以上押しつけることはできません。これだけは、もうはっきりしています。
次に、「どこへ引き取るのか」を国会で議論できるよう働きかけましょう。基地は自治体に大きな影響を与えますが、自治体の組織・運営にかかわることは、「地方自治の本旨」に基づいて「法律」でこれを定めると憲法にも書いてあります。つまり、「どこへ引き取るのか」は、最終的には、憲法にのっとって最終的には国会で決めるほかありません。その際、再び弱者に基地を押しつけないよう、自治体における住民投票は必須であり、「地方自治を尊重する」という憲法の原則だけは最後まで遵守したいです。
「どこへ引き取るのか」。この問いは、ひとりひとりの主権者が引き取り、そして最終的には国権の最高機関であり国の唯一の立法機関である国会が引き取ります。これによって、私たちは沖縄に基地を押しつけるのをやめることができます。(福本圭介@新潟)
答え3:
沖縄の基地を引き取ろうと訴えたときに,必ず「どこに引き取るのですか?」と聞かれます。「私が住んでいるところに引き取ります」と答えたくなります。しかし,引き取り運動は,社会運動としてはまだ数年の運動です。まずは,沖縄からの県外移設や「引き取れ」という声を「本土」で広め,同時に国会や地方議会の場で引き取りを議論するための土台を、運動として作っていくべきだと考えています。
そして、沖縄に負担を押し付けすぎた、「本土」も負担しなければならないと、圧倒的大多数が理解した時に、基地はどこに引き取るかという議論が成り立つのではないかと考えます。
しかし、自分の街に米軍基地を引き取るという強い覚悟は必要だと思います。構造的な差別の結果、沖縄に押し付けた基地は、本来なら「本土」が負担しなければなりません。覚悟がないまま、基地引き取りを主張しても、基地を沖縄へ押し返すことになりかねません。そうならないためにも、自分の街に来て当然だということを常に念頭に置いて、基地引き取りを主張していきたいと思います。(佐々木史世@首都圏)
答え4:
引き取り先について、私たちは「福岡も含む『本土』」と答えるようにしています。日米両政府高官が口をそろえて言うように、在沖米軍基地の引き取りが実現するとなれば、その移設先が九州となる可能性は高いです。では、私たちはどう向き合っていけばいいのでしょうか。
ひと言で九州といっても広く、多くのメンバーが住む福岡市は九州の中核都市です。一方、移設先としてよく候補に挙げられる佐賀県や大分県はさらなる地方であり、それらの地域との関係性において「中心―周縁」の力関係から逃れることができません。「沖縄差別をなくすために我慢せよ」と都市の人間が地方の人間に向けて言う市民運動は、おそらく成立しないでしょう。どこへ引き取るかは簡単に解が見つからない、苦しくも重大な課題です。
しかし、そこでふと気付くわけです。このような問いを沖縄の人たちはずっとかかえ、悩み、決断を迫られてきたのではなかったかと。考えてみれば、ようやく私たちは、安全保障や民主主義というこの国のあり方を「自分事」として考えるスタートラインに立ったとも言えます。
悩みつつも、多くの市民にこの運動に参加してほしいと願っています。(里村和歌子@福岡)
問い: 引き取って終わりですか?
答え1:
引き取ろうと思った時に、誰でも自問自答し考えることだと思います。引き取ったら本土が基地だらけになる、沖縄のようになる(本土の沖縄化)という人もいます。
引き取ったら終わりですか?
それは基地を引き取ったらどうなるんだ⁉︎と言っているようにわたしには聞こえます。でも、本土から沖縄に基地が移設されて行った時に「移設して終わりですか」と誰が言ったでしょうか?私たちは沖縄に基地を押し付けて自らの基地問題を終わりにしてきました。基地を引き取ることで沖縄への植民地主義を終わらせることができるのではないでようか。
引き取って終わりですか?
もし私たちが望むなら、引き取ってから日本に米軍基地を置かないことに決めることもできます。沖縄の人たちと一緒にオール日本で米軍基地に抗うことでそれは実現されるのではないでしょうか。(漆山ひとみ@山形)
答え2:
沖縄の米軍基地を「本土」に引き取った時点で運動の目的を達成したと考えて、活動をやめるのは個人の自由ですが、私はそれで終わるとは全く思いません。沖縄の米軍基地問題も、そこに象徴される沖縄への差別も、引き取りによってすべて解決するとは思えないからです。
しかし、引き取りは、基地負担を沖縄に押し付けている日米安保体制や、日本の民主主義を見直すきっかけにはなると、期待しています。なぜなら、引き取りにおいては、軍事基地に伴う爆音、事故、事件などのリスクをどのように民主的に分担するかが、不断に問われるからです。いみじくも、アメリカ副大統領のカマラ・ハリスが選挙の勝利演説で語ったように、民主主義というのは定常ではなく行動であり、当然視することはできず、守るためには努力が求められます。引き取りもまた、脆い民主主義を守るための「不断の努力」(日本国憲法第12条)のひとつにすぎません。(左近幸村@新潟)
問い: 「総論賛成・各論反対」、「NIMBY(私の家の近くはイヤ!)」をどう乗り越えるのですか?
答え1:
「沖縄の基地負担を考えると、基地は『本土』に引き取るべきだとは思うけど、自分の自治体には来てほしくない」。このような「総論賛成・各論反対」の心情はわからなくはありません。しかし、まさにこのような日本人マジョリティの態度こそがこれまでも沖縄に基地を押しつけてきました。では、どうしたらこれを乗り越えて、基地の公平・公正な負担へ向けて進んでゆけるか。
これほどまでに米軍・米兵が危険なのは、それらが日本の国内法に従わない治外法権的な存在だからでしょう。まずは、日米地位協定を改正して、彼らを日本の国内法に従わせる必要があると思います。これが最初にすべきことです。
次に、基地の引き取り先の決定については、基地の「公平・公正」な負担をうたった「基地公平負担法」のもとで行ってはどうでしょうか。「公平・公正」に基地引き取りを行うための法律をつくり、「法の下での平等」や「地方自治の尊重」といった憲法の原則を日米安保体制にきちんと適用するのです。皆さん、このような法律の制定になら賛成できるのではないでしょうか。私は、「総論賛成・各論反対」「NIMBY」は、立憲主義(憲法と法にもとづく政治)によって乗り越えてゆくべきだと考えます。(福本圭介@新潟)
答え2:
小泉純一郎元首相は「総論賛成・各論反対で、沖縄県の負担を軽減するのはみんな賛成だが、どこに持っていくかとなると、みんな反対する。賛成なんてだれもいない。平和と安全の恩恵と、それに見合う負担をどこが負うかだ」と朝日新聞上で述べています。
多くの国民が日米安保に何らかのメリットを見出しているのに,基地負担を沖縄だけに押し付けることは許されることではありません。
自分の街に米軍基地が来ることはだれでも嫌だと思います。だけど,自分たちが日米安保を支持しているのだから(もしくは日米安保容認の世論を変えられないのだから),負担も負わなければならないという世論を作らなければならないと思います。(佐々木史世@首都圏)
マンガ「あなたはどのタイプ?」
このマンガは、読んだ人に、沖縄の米軍基地過重負担に対してどのような態度をとるのかを考えてもらおうと、知念ウシさんの寓話を参考に福岡の会で発案して、マンガ家のづよづよさんに描いてもらったものです。現在は、街頭宣伝のビラや広報新聞に掲載されるなど、全国の会で活用されています。
最後のコマの「引き取りさん」の「自分のランドセルくらいは自分で持とうよ」というセリフを受けた、「じぶんの荷物はじぶんで持つよ」というスローガンは、「基地引き取り運動」の考え方を表すのによく使われています。